「怖い…でも、きれい…!」
漆黒の森をヘッドライトの灯りだけを頼りに歩くこと10分。木々の間を抜けた瞬間、目の前に広がる光景に、私は思わず息をのみました。

頭上には、都会では決して見ることのできない無数の星々と、夜空を横切る壮大な天の川。そして、静まり返った湖面には、その星々が鏡のように映り込み、まるで宇宙に浮かんでいるかのような錯覚に陥ります。風が凪いだ瞬間、水面に映る紅葉のシルエットと星空が一体となり、この世のものとは思えない幻想的な世界が広がっていました。
それは、八ヶ岳の秘境「白駒池(しらこまいけ)」での星空です。

標高2,115mに位置するこの天空の湖は、ただ美しいだけではありません。少しの冒険心と準備さえあれば、誰でも生涯忘れられない星空に出会える特別な場所なのです。
この記事では、私が体験した紅葉シーズンの星空ナイトハイクの様子から、具体的な撮影方法、1日3組限定の特別な「湖上星空ボート」ツアー、そして白駒池を訪れる前に知っておきたい全ての情報(ベストシーズン、苔の見頃、熊対策、アクセスなど)を解説します。
「白駒池で最高の星空を見てみたい」「星と紅葉の写真を撮ってみたい」
そうお考えのあなたへ、この記事が最高のガイドとなることをお約束します。
他にも星空スポットを紹介しています💁
なぜ白駒池は“星空の聖地”なのか?3つの理由
日本全国に星空スポットは数あれど、なぜ白駒池は多くの写真家や天文ファンを惹きつけてやまないのでしょうか。その理由は、他の場所にはない圧倒的な条件が揃っているからです。
1. 標高2,115mがもたらす「突き抜ける」ような透明度
星空を美しく見るための最大の条件は、**「空気が澄んでいること」**です。
白駒池は、国道299号(メルヘン街道)の最高地点、麦草峠のすぐ近くに位置し、その標高はなんと2,115m。これは、自動車でアクセスできる湖としては日本最高標高を誇ります。標高が高いということは、塵や水蒸気が少なく、地上と星空を隔てる空気の層が薄いということ。そのため、星の一つひとつの輪郭がくっきりと見え、まるで手を伸ばせば届きそうなほどの立体感と、突き抜けるような透明度の高い星空を眺めることができるのです。

2. 都会の光が届かない、漆黒のキャンバス
美しい星空のためには、**「人工の光がないこと(光害がないこと)」**も絶対条件です。
白駒池は八ヶ岳の原生林の奥深くに位置し、周囲には大きな街がありません。駐車場から池までの約15分間は、照明が一切ない手付かずの自然の中。夜になれば、そこは真の闇に包まれます。この漆黒の闇が完璧なキャンバスとなり、天の川の淡い光や、小さな星々の瞬きまでも鮮明に浮かび上がらせてくれるのです。
3. 静寂の湖面が映し出す神秘の「逆さ星空」
白駒池の星空を特別なものにしている最大の魅力が、「湖面に映る星」の存在です。
周囲を原生林に囲まれた白駒池は、風の影響を受けにくく、湖面が穏やかな日が多くあります。特に風が止んだ夜、静まり返った湖面は巨大な鏡と化し、頭上の星空を寸分違わず映し出します。
天と地の両方に広がる満天の星。その光景は「逆さ星空」や「星の湖」とも呼ばれ、まるで自分が宇宙空間に浮かんでいるかのような、非日常的で没入感のある体験をもたらしてくれます。
【体験談】紅葉シーズンの星空ナイトハイク~怖さと感動の先に~
私が白駒池を訪れたのは、紅葉が見頃を迎えた10月上旬。目的は、燃えるような紅葉と満天の星を一枚の写真に収めることでした。

駐車場からのアプローチ(約10~15分)
陽が落ち、あたりが完全に闇に包まれた夜9時過ぎ。白駒池有料駐車場に車を停め、撮影機材を背負い、池へと向かいます。駐車場は24時間利用可能で、夜間は料金箱にお金を入れるシステムなので、時間を気にせず星空を楽しめるのが嬉しいポイントです。
駐車場から池の入口まではすぐですが、そこからがナイトハイクの始まり。木道が整備されているとはいえ、周囲は完全な闇。聞こえるのは自分の足音と、風で木々がさざめく音、そして遠くで響く動物の鳴き声だけ。ヘッドライトの光が照らす範囲しか見えず、正直なところ、かなり怖いです。
「本当にこの先に絶景があるのか…?」
そんな不安が頭をよぎります。しかし、この少しの恐怖心こそが、非日常への扉。まさに冒険の始まりでした。
森を抜けた先に広がる、息をのむ光景
ゴツゴツした岩や木の根に注意しながら、苔むした森の中を歩くこと約10分。視界がパッと開け、目の前に白駒池が姿を現しました。
その瞬間、恐怖心は一瞬で感動へと変わりました。

空には、インクをこぼしたような濃密な天の川。湖の対岸には、夜の闇に溶け込むダケカンバやナナカマドの紅葉がシルエットとなり、静かな湖面には無数の星がキラキラと揺らめいています。
「うわぁ…」
思わず声が漏れました。あの夜の森を歩いてきたからこそ、この光景がより一層、神秘的で尊いものに感じられるのです。都会の喧騒から完全に切り離された静寂の中で、聞こえるのは時折シャッターを切る音だけ。夢中でシャッターを切り続け、気づけばあっという間に時間が過ぎていました。
白駒池 星景写真撮影 完全ガイド
あなたも、この感動的な光景を写真に残してみませんか?ここでは、白駒池で最高の星景写真を撮るためのポイントを、初心者の方にも分かりやすく解説します。
ベストな撮影時期と時間帯
• 時期:空気が澄み、天の川が最も見やすい**夏(7月~8月)がベストシーズンです。しかし、私のように紅葉シーズン(9月下旬~10月中旬)**に訪れれば、星と紅葉という唯一無二の写真を狙えます。
• 月齢:星空撮影で最も重要なのが月齢です。月明かりは星の光を消してしまうため、新月の前後数日間が絶対的な狙い目です。事前に月齢カレンダーを確認し、月の出ない時間帯を計画しましょう。
• 時間帯:天の川が空の中心に昇る時間帯を狙います。これは季節によって変動するため、「Stellarium」などの天文アプリで事前にシミュレーションしておくことを強く推奨します。
おすすめ撮影ポイント
• 白駒荘・青苔荘の前: 池のほとりにある山小屋の前は、視界が開けており、湖面に映る星空を撮るのに最適な定番スポットです。ベンチもあり、機材を置いて落ち着いて撮影できます。
• 池を巡る遊歩道: 一周約40分の遊歩道を歩きながら、自分だけの構図を探すのも楽しみの一つです。紅葉した木々を前景に入れたり、特徴的な岩と一緒に撮ったりと、様々なバリエーションの写真が撮影できます。
必要な機材
• カメラ:高感度に強く、マニュアル設定ができる一眼レフカメラやミラーレス一眼カメラが理想です。
• レンズ:星空を広く写せる広角レンズ(35mm判換算で14mm~24mm程度)が必須です。F値(絞り)がF2.8以下の明るいレンズだと、より多くの光を取り込めて有利です。
• 三脚:星空撮影は長時間露光(シャッターを長く開ける)が基本。ブレを防ぐために、頑丈でしっかりした三脚は絶対に必要です。
• レリーズ(リモートスイッチ):シャッターボタンを直接押すとブレの原因になります。レリーズを使うことで、カメラに触れずにシャッターを切ることができます。
• ヘッドライト:両手を自由にするために必須。他の撮影者の迷惑にならないよう、赤色灯に切り替えられるタイプが最適です。赤色灯は暗闇に慣れた目に優しく、周りへの配慮にもなります。

カメラ設定の基本(まずはここから!)
星空撮影に決まった設定はありませんが、まずは以下の設定を基準に、撮影結果を見ながら調整してみてください。
1. 撮影モード:**マニュアルモード(M)**に設定します。
2. 絞り(F値):レンズが持つ**最も小さい数値(開放F値)**に設定します(例:F1.8, F2.8)。
3. シャッタースピード:15秒~25秒に設定します。これ以上長くすると、地球の自転で星が線のように流れて写ってしまいます。
4. ISO感度:ISO3200~6400から始めます。写真が暗ければISO感度を上げ、明るすぎれば下げて調整します。
5. ピント合わせ:これが最も重要です。オートフォーカスは効かないので、**マニュアルフォーカス(MF)**に切り替えます。ライブビュー画面で一番明るい星を最大まで拡大表示し、ピントリングを回して星が一番小さな点になるように合わせます。一度合わせたら、テープなどで固定するとズレを防げます。
6. その他:手ブレ補正はOFFに、長秒時ノイズ低減は好みで設定(ONにすると処理時間が倍かかります)。
この設定で撮影し、紅葉のシルエットと天の川、そして湖面に映る星々を一枚に収めることができた時の感動は、今でも忘れられません。
究極の星空体験!1日3組限定「湖上星空ボート」
「もっと特別な星空体験がしたい!」という方には、白駒池の山小屋「白駒荘」が提供する、究極のアクティビティをおすすめします。それが「湖上星空ボート」です。

まるで宇宙船?星の海に漕ぎ出す特別なツアー
このツアーは、その名の通り、夜の白駒池にボートで漕ぎ出し、湖の中心から星空を眺めるというもの。周囲360°、視界を遮るものは何もありません。頭上には満天の星、そして足元には湖面に映る星々。まるで自分が宇宙船に乗り、星の大海原を漂っているかのような、信じられないほどの没入感を味わうことができます。

ツアー概要と予約方法
• 催行場所:白駒荘
• 対象者:白駒荘の宿泊者限定
• 定員:1日3組限定というプレミアムなツアーです。
• 時間:19:30から約30~45分間。
• 予約方法:白駒荘に宿泊予約をする際に、オプションとして申し込みます。非常に人気が高いため、希望する場合は早めの予約が必須です。
• 注意点:安全のため、小学生以上が対象で、ライフジャケットの着用が義務付けられています。また、天候によっては中止になる場合もあります(雨天時はスライド上映会に変更)。
この特別な体験は、白駒池に宿泊するからこそ得られる特権です。星空の下で静かな一夜を過ごし、翌朝は美しい朝焼けに染まる白駒池を眺める。そんな贅沢な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
詳細は白駒荘のページをご確認ください💁こちら
白駒池のすべてがわかる!気になるQ&A
ここでは、あなたが白駒池を訪れる前に抱くであろう疑問について、一つひとつ丁寧にお答えしていきます。
Q1. 白駒池のベストシーズンはいつ?
白駒池は四季折々、全く違う表情を見せてくれる魅力的な場所です。あなたの目的に合わせてベストシーズンを選びましょう。
• 【一番人気】燃えるような紅葉の秋(9月下旬~10月中旬)
ダケカンバの黄色、ナナカマドの赤、そして常緑樹の緑が織りなすコントラストは息をのむ美しさです。標高が高いため、本州で最も早く紅葉が楽しめるとも言われています。この時期は最も混雑し、週末は早朝から駐車場が満車になることもあるため、平日に訪れるか、早朝に到着する計画が必要です。星空との相性も抜群です。
• 【神秘的】苔の森が輝く初夏(6月~8月)
白駒池のもう一つの主役が「苔」。池の周辺は「日本の貴重なコケの森」に選定されており、485種類もの苔が自生しています。特に梅雨時期から夏にかけては、苔が水分をたっぷりと含んで生き生きと輝き、まるでジブリ映画の世界に迷い込んだかのような神秘的な光景が広がります。涼を求めるハイキングにも最適な季節です。

• 新緑の春(5月下旬~6月)と静寂の冬(11月~4月)
メルヘン街道の冬季閉鎖が解除される5月下旬頃は、芽吹いたばかりの瑞々しい新緑が楽しめます。冬は池が完全に凍結し、一面の銀世界となりますが、道路が閉鎖されるためアクセスは上級者向けのスノーハイクとなります。
Q2. 白駒池の苔はいつ頃見頃ですか?
白駒池の苔を最も美しく見られるのは、梅雨の時期(6月下旬~7月中旬)、そして雨が降った直後です。
苔は乾燥すると少し元気がなくなって見えますが、雨や霧で水分を含むと、細胞の一つひとつが開き、鮮やかな緑色に輝き出します。しっとりと濡れた森の中、光に照らされてキラキラと輝く苔の絨毯は、時間を忘れて見入ってしまうほどの美しさです。雨の日こそ、白駒池の真の魅力に出会えるチャンスかもしれません。
Q3. 熊は出ますか?安全対策は?
はい、八ヶ岳周辺にはツキノワグマが生息しています。 白駒池周辺で目撃情報が報告されることもあります。特に、私が体験したような夜間の単独行動(ナイトハイク)は、熊との遭遇リスクを高めるため、十分な対策と覚悟が必要です。
【必ず実践すべき熊対策】
1. 音を出す:最も基本的な対策です。熊鈴を身につける、定期的にラジオを流す、同行者と会話するなど、自分の存在を熊に知らせることが重要です。熊は本来、臆病な動物であり、人を避ける傾向があります。
2. 複数人で行動する:単独行動は避け、できるだけ複数人で行動しましょう。特に夜間は絶対に一人で行動しないでください。
3. 食べ物の管理を徹底する:食べ物の匂いは熊を引き寄せます。ザックの中に密閉して入れ、ゴミは必ず持ち帰りましょう。
4. 早朝・夕暮れ時を避ける:熊の活動が活発になる時間帯(薄明薄暮時)の行動は慎重に。
5. 最新情報を確認する:訪れる前に、現地の観光協会や山小屋のウェブサイトで最新の熊の出没情報を確認しましょう。
ナイトハイクは素晴らしい体験ですが、それは安全が確保されてこそ。これらの対策を徹底し、自然への敬意を忘れないようにしましょう。
Q4. 「八ヶ岳で有名な池」って、白駒池のこと?
その通りです。八ヶ岳エリアには大小さまざまな池がありますが、その中でも白駒池は知名度、規模、美しさにおいて別格の存在です。
標高2,100mを超える天然湖としては日本最大であり、原生林と苔の森に囲まれたその神秘的な雰囲気は、他のどの池とも一線を画します。テレビ番組や雑誌でも頻繁に取り上げられる、まさに八ヶ岳を代表する景勝地と言えるでしょう。
Q5. 散策するのにどれくらい時間がかかりますか?
白駒池では、滞在時間や体力に合わせて様々な散策コースを楽しめます。
• お手軽コース:池の周り一周(所要時間:約40分)
駐車場から池までの往復(約30分)を含めても、1時間半ほどで気軽に楽しめます。アップダウンの少ない木道が整備されており、スニーカーでも安心して歩けます。湖畔の景色や「もののけの森」と呼ばれる苔の美しいエリアを堪能できます。
もう少し足を延ばしたい方には、白駒池を見下ろせる絶景スポット「高見石」へのハイキングがおすすめです。池のほとりから少し急な登りになりますが、巨大な岩が積み重なった展望台からの眺めは圧巻です。
【散策マップ情報】
散策マップは、白駒池入口の案内所や、佐久穂町観光協会のウェブサイトなどで入手できます。事前にコースを確認しておくと、よりスムーズに散策を楽しめます。
白駒池へのアクセス【完全版】
白駒池へのアクセスは、主にマイカーか季節運行のバスになります。
マイカーでのアクセス
• ルート:
• 中央自動車道「諏訪IC」から約60分
• 中部横断自動車道「佐久南IC」から約60分
• ナビ設定:「白駒池駐車場」または「白駒荘」
• 駐車場:白駒池有料駐車場を利用します。
• 料金: 普通車 600円/日(2025年現在の情報。変更の可能性あり)
• 営業時間: 営業期間中(4月下旬~11月中旬頃)は24時間利用可能。夜間や早朝は係員が不在のため、入口にある封筒に料金を入れて料金箱に投函します。
• 注意点: 紅葉シーズンの週末は、朝7時には満車になることも珍しくありません。大混雑が予想される日は、数km手前の臨時駐車場から発着するシャトルバスの利用も検討しましょう。
公共交通機関でのアクセス
• ルート:JR中央本線「茅野駅」から、アルピコ交通のメルヘン街道バスに乗車し、「白駒の池」バス停で下車。
• 所要時間:茅野駅から約60分
• 注意点:このバスは季節運行です。例年、4月下旬から11月上旬頃までの運行となり、運行期間や時刻表は年によって変動します。必ず事前にアルピコ交通の公式サイトで最新の情報を確認してください。星空観賞目的の場合、帰りのバスがないため、山小屋に宿泊する必要があります。
星空観賞と撮影のための準備リスト
標高2,000m超の夜は、夏でも想像以上に冷え込みます。万全の準備で、快適に星空観賞を楽しみましょう。
• 服装
• 防寒着:夏でもフリースや薄手のダウンジャケットは必須。秋以降は真冬並みの装備(厚手のダウン、ニット帽、手袋)が必要です。
• しっかりした靴:駐車場から池までは未舗装の山道です。スニーカー、できればトレッキングシューズが安心です。
• レインウェア:山の天気は変わりやすいので、上下セパレートタイプのしっかりした雨具を必ず用意しましょう。
• 持ち物
• ヘッドライト:必須アイテム。予備の電池も忘れずに。
• 熊鈴:安全対策として必ず携帯しましょう。
• 三脚、カメラ機材:撮影する方はお忘れなく。
• モバイルバッテリー:スマートフォンやカメラのバッテリーは、低温下では消耗が早くなります。
• 温かい飲み物:魔法瓶に入れて持っていくと、冷えた体を温めてくれます。
• 星座アプリ:スマートフォンに入れておくと、目の前に広がる星々の名前がわかり、楽しみが倍増します。
まとめ:白駒池での星空で生涯忘れられない感動を
白駒池の星空は、ただそこに行けば見られるものではありません。夜の森を歩く少しの勇気、寒さに耐えるための準備、そして自然への敬意。それらがあって初めて、私たちは天空の湖が魅せてくれる最高の光景に出会うことができます。
漆黒の闇に浮かび上がる、紅葉のシルエットと満天の星。静寂の湖面に映り込む、もう一つの宇宙。
あの夜、ナイトハイクの怖さを乗り越えた先に待っていた感動は、今でも私の心に深く刻まれています。この記事を読んでくださったあなたも、ぜひ白駒池を訪れ、あなただけの特別な星空を見つけてみてください。きっと、それは生涯忘れられない、かけがえのない体験になるはずです。
【関連リンク】
より詳細な駐車場の利用方法や最新情報については、以下の公式サイトをご確認ください。
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